[本ページはプロモーションが含まれています]
手付解除には、「いつまで解除できるか」という重要な制限があります。
民法557条、宅建業法39条はいずれも、
「相手方が契約の履行に着手した後は、手付解除できない」
と規定しています。
つまり、相手方が履行に着手すると、
・買主の手付放棄による解除
・売主の倍返しによる解除
は、できなくなります。
ここで重要なのは、
・「履行に着手した時点」で手付解除権が消滅する
・契約そのものが消えるわけではない
・以後は通常の契約責任の問題になる
・契約解除そのものが一切できなくなるわけではない
という点です。
「手付解除」という特別な解除方法が使えなくなるだけであり、その後は通常の契約ルールによって処理されます。
この記事では、不動産取引の売買契約の相手方が履行に着手した後の契約解除方法(違約金?手形解除できる?)について民法・宅建業法における考え方についてわかりやすく説明します。
不動産取引の売買契約相手方が履行に着手後の契約解除
民法の場合
1.履行着手後は手付解除できない
民法557条は、解約手付による解除について、
・買主 → 手付放棄
・売主 → 倍額提供
による解除を認めています。
しかし、その解除は、
「相手方が履行に着手するまで」
に限定されています。
つまり、
・買主の手付放棄解除
・売主の倍返し解除
のいずれも、相手方が履行に着手した後はできません。
2.「履行着手」とは何か
履行着手とは、契約内容を実現するための現実的・具体的行為をいいます。
単なる準備行為では足りません。
例えば、
売主側の履行着手例
・所有権移転登記申請の準備開始
・引渡準備
・境界明示
・引渡し実行
など
買主側の履行着手例
・中間金支払い
・残代金支払い
・引渡し受領
など
3.履行着手後はどうなるか
手付解除制度は、本来、
「契約後の一定期間だけ、簡易に契約から離脱できる制度」
です。
しかし、相手方が履行に着手すると、
・契約を前提に動き始めている
・費用や準備が発生している
・信頼関係が形成されている
ため、単純に解除を認めると相手方に大きな損害が生じます。
そのため法律は、
履行着手後は「自由な離脱」を認めない
という構造にしています。
4.なぜ解除できなくなるのか
手付解除の段階では557条2項により損害賠償請求は制限されます。
しかし、履行着手後は「手付解除制度」が使えないため、通常の債務不履行責任へ移行します。
そのため、
・違約金請求
・損害賠償請求
が問題になることがあります。
5.履行着手後に「気持ちが変わった」場合
(1) 原則:一方的解除はできない
例えば、
売主側
・「もっと高値で買う人が現れた」
・「やっぱり売りたくない」
買主側
・「ローンが不安になった」
・「別物件が欲しくなった」
という事情が生じても、
履行着手後は手付解除できません。
つまり、
・手付放棄
・倍返し
で自由に解除することはできません。
(2) では契約はどうなるのか
原則として、
契約どおり履行しなければなりません。
つまり、
・売主 → 引渡義務
・買主 → 代金支払義務
を負います。
6.それでも契約をやめたい場合
履行着手後でも、契約終了の方法が完全になくなるわけではありません。
主に次の方法があります。
(1) 合意解除
最も多いのが「合意解除」です。
これは、
当事者双方が納得して契約を終了させる方法
です。
例えば、
・売主が解約金を支払う
・買主が一定額を放棄する
・双方譲歩する
などです。
実務では非常によく使われます。
(2) 契約違反(債務不履行)がある場合
例えば、
・買主が残代金を払わない
・売主が引渡ししない
などの場合は、民法541条以下の債務不履行解除の問題になります。
この場合は、
・損害賠償請求
・違約金請求
なども問題になります。
(3) 特約解除
契約書に、
・ローン特約
・買換特約
・停止条件
などがある場合には、その特約に基づき解除できる場合があります。
宅建業法の場合
1.宅建業法でも履行着手後は手付解除不可
宅建業法39条2項も、民法と同様に、
「相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。」
と規定しています。
したがって、
・買主の手付放棄解除
・宅建業者売主の倍返し解除
は、いずれも履行着手後はできません。
2.宅建業法は民法の手付解除構造を前提にしている
宅建業法39条は、
・手付を必ず解約手付とみなす
・買主保護のため強制適用する
規定です。
したがって、履行着手後に手付解除できなくなる点も、民法557条の構造を前提にしています。
3.「気が変わった」だけでは解除できない
宅建業法でも同様に、
・「もっと高く売れそう」
・「やっぱり買いたくない」
などの事情だけでは解除できません。
履行着手後は、
契約拘束力が強く働く段階
に入っているからです。
4.履行着手後は通常の契約責任へ移行
宅建業法でも、履行着手後は手付解除制度が終了します。
履行着手後は、
・合意解除
・債務不履行解除
・特約解除
など、通常の契約法理で処理されます。
つまり、
履行着手前
→ 手付解除の世界
履行着手後
→ 通常の契約責任の世界
へ移行するということです。
重要整理
試験で、
「履行着手後は解除できない」
という肢が出た時は、厳密には誤りです。
正しくは、
「履行着手後は“手付解除”できない」
です。
つまり、
手付解除 → 不可
合意解除 → 可能
債務不履行解除 → 可能
特約解除 → 可能
という整理になります。
まとめ
履行着手前は、
・買主 → 手付放棄
・売主 → 倍返し
による自由な解除が認められます。
しかし、相手方が履行に着手すると、
・「気が変わった」
・「事情が変わった」
だけでは解除できなくなります。
以後は、
・契約どおり履行する
・合意解除する
・債務不履行解除を行う
・特約解除を利用する
など、通常の契約ルールによって処理されることになります。
<宅建士試験講座 宅建業法シリーズ>
宅建士試験講座 宅地建物取引業とは?宅地、宅建業、宅建業法上の事務所の定義
宅建士試験講座 宅地建物取引業の免許の種類、登録申請先、有効期間、宅建業者名簿、免許証、廃業等の届出
宅建士試験講座 宅地建物取引業の免許換え、みなし業者と無免許営業特例、無免許営業・名義貸しの禁止
宅建士試験講座 宅地建物取引業者の免許の欠格要件・欠格事項(宅建業法5条)
宅建士試験講座 宅建士とは?宅建士になるには?宅地建物取引士ができること
宅建士試験講座 宅建士登録の欠格事由.宅地建物取引士欠格要件(宅建業法18条1項)
宅建士試験講座 宅建業法18条1項(宅建士欠格)vs 5条1項(宅建業者免許欠格)の違い、条文対比
宅建士試験講座 宅建士登録申請と宅建士資格登録簿、登録変更、登録消除、登録移転
宅建士試験講座 宅地建物取引士証(宅建士証・取引士証)有効期間、提示、記載事項、書換え・再交付、返納・提出
宅建士試験講座 不動産業者・宅建業者の営業保証金とは?営業保証金の仕組み、供託、還付、取戻し
宅建士試験講座 不動産業者の保証協会の弁済業務保証金の仕組、弁済業務保証金分担金、供託、還付、取戻し・返還
宅建士試験講座 宅建業者の供託金 営業保証金と保証協会の弁済業務保証金(分担金)の比較、違いは?
宅建士試験講座 宅建業者の供託所等に関する説明義務.宅建業法35条の2
宅建士試験講座 宅建業法広告規制.誇大広告の禁止、広告開始時期、取引態様の明示義務など
宅建士試験講座 宅建業者の事務所・案内書要件、標識設置、従業者証明書・従業者名簿・帳簿
宅建士試験講座 不動産取引における仲介、媒介契約、代理契約とは?仲介と媒介、代理の違いは?
宅建士試験講座 不動産取引の媒介契約の種類.一般媒介契約、専任媒介契約、専属専任媒介契約の違いは?
宅建士試験講座 不動産の売買・交換の媒介・代理契約書面(34条の2書面)の交付義務と記載事項
宅建士試験講座 不動産取引(売買・交換・貸借)での重要事項の説明義務(宅建業法35条)
宅建士試験講座 宅地(土地)・建物の売買・交換の重要事項説明書の記載事項(宅建業法35条1項、2項)
宅建士試験講座 区分所有権建物(マンション)売買・交換の重要事項の説明義務、重説の記載事項(宅建業法35条)
宅建士試験講座 土地(宅地)建物(未完成・区分所有含む)貸借の重要事項説明、重説の記載事項(宅建業法35条)
宅建士試験講座 区分所有権建物(マンション)貸借の重要事項の説明義務、重説の記載事項(宅建業法35条6項)
宅建士試験講座 不動産信託受益権売買の重要事項説明義務、重説の記載事項(宅建業法35条3項、50条の2の4)
宅建士試験講座 宅建業37条書面とは?書面記載事項、契約書との違い(宅建業法37条)
宅建士試験講座 宅建業者が自ら売主となる8種制限とは?宅建業法の8種規制一覧でわかりやすく
宅建士試験講座 宅建業者8種制限.他人物売買契約締結の制限(宅建業法33条の2)
宅建士試験講座 宅建業者8種制限.不動産クーリングオフ.事務所等以外の場所においてした買受けの申込みの撤回等(宅建業法37条の2)
宅建士試験講座 宅建業者8種制限.損害賠償額の予定等の制限(宅建業法38条)
-120x68.jpg)